【概要】
先進国における母体死亡の20%近くは自殺が占めていると推定されていますが、産後の自殺企図に影響しうるリスク因子を統計学的に評価した研究は未だ十分には行われていません。
東北大学大学院医学系研究科 産婦人科学分野 齋藤昌利教授、八重樫伸生教授らのグループは、日本全国の大規模なDPCデータを用いて、疫学データ、既往歴、生活歴などを網羅的に解析し、産後1年以内の女性における自殺企図のリスク因子を検証しました。
その結果、産前のアルコールやタバコの使用障害、統合失調症、人格障害、不安障害などが、産前のうつ病の既往にも増して産後に自殺企図を引き起こすリスクを高める可能性があることが分かりました。
また、産後の自殺のリスクは年齢が若いほどやや高い傾向が認められました。
本研究によって、これらの産前リスクを有する妊婦に対しては、産前・産後の自殺を予防するための適切な評価や介入を行う必要性が示唆されます。
本研究成果は、2023年1月12日 米国医師会のオープンアクセス誌であるJAMA Network Open(電子版)に掲載されました。
図1.日本全国のDPCデータを用いた本研究の研究デザイン
Diagnosis-Procedure Combination(DPC)制度に参加している日本全国の病院から集計されたデータベースを利用して、産後1年以内の自殺企図のリスク因子を網羅的に検証した。2016年度~2021年度に出産してDPCデータベースに登録されていたのべ80万人の妊婦を抽出し、研究対象とした。産後1年以内の自殺企図による再入院の有無で2群にわけ、年齢、BMI、分娩時の産科的処置内容、産前の内科疾患の既往、精神疾患の既往などを、単変量解析および多変量解析により比較した
【用語解説】
※1 DPCデータ: Diagnosis Procedure Combinationの略で、個々の入院患者に施される医療の標準化や効率化を目指して2003年から導入された日本独自の定額制の診療報酬制度。2022年4月1日現在、全国82の大学病院すべてを含む1,764病院(約48万床)がDPC制度に参加している。DPCにより作成されるデータには、診断名や、行われた処置、投薬の内容、入院時および退院時の患者の状態などの情報が含まれている。
本研究は、厚生労働省科学研究班(研究代表者:東京医科歯科大学、伏見清秀教授)が有する全国約1,100病院のDPCデータがもつ膨大な患者データおよび入院時主病名情報という利点を生かして、産前・産後の女性における自殺企図入院という稀な事象の疫学情報や既往症などを比較した。
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