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SAカレッジコースⅢ第10回月例会にご登壇の富田博秋 教授らによるプレスリリースが発表されています

2022年12月12日

統合失調症の病態に男女差はあるか? 脳内トランスクリプトーム解析に基づく疾患病態の性差の解明

 

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SAカレッジコースⅢ第10回月例会にご登壇の富田博秋 教授らによるプレスリリースが発表されています。(以下大学HPより抜粋)

【発表のポイント】

  • 統合失調症注1罹患者の脳領域(背外側前頭前野注2)のトランスクリプトーム注3解析を行ったところ、女性罹患者においてドパミン注4、GABA注5神経伝達とミトコンドリア機能注6に関連する遺伝子の顕著な発現変動が認められた。

  • 女性の統合失調症患者および雌マウスで、ミトコンドリア代謝を制御するACSBG1注7のDNA高メチル化注8および発現減少を特定した。

  • 統合失調症の発症に関わる要因は男女で異なる側面があり、性差に着目することで統合失調症の病態解明が進む可能性を示唆した。

 

【概要】

統合失調症の臨床症状に男女差があることが指摘されていますが、男女差が生じるメカニズムについては未だ不明な点が多く残っています。東北大学大学院医学系研究科の兪志前講師、富田博秋教授らのグループは、健常者および統合失調症患者の背外側前頭前野トランスクリプトームの大規模データを解析しました。その結果、統合失調症を罹患した女性では、男性より多くの遺伝子発現が変動していることを見出しました。これらの変動した遺伝子群が機能別のカテゴリーに属する頻度を解析したところ、γ-アミノ酪酸(GABA) 抑制性ニューロンの神経伝達、および、脳内細胞のエネルギー産生等に関わるミトコンドリア機能に関する遺伝子群の発現が有意に高いことが確認されました。さらに、母体免疫負荷による統合失調症のモデル動物注9を用い、ヒトとマウスに共通で変動していたミトコンドリア機能に関わるACSBG1の有意なDNA高メチル化、および発現レベルの減少を確認しました。本研究結果は統合失調症の女性患者における病態の生物学的基盤を説明する可能性があり、性差に着目することで統合失調症の病態解明が進む可能性を示唆しました。

本研究成果は、2022年11月22日付でMolecular Nのurobiologyのオンライン版で公開されました。

本研究は、京都大学・長﨑正朗教授、千葉大学・橋本健二教授、熊本大学・岩本和也教授、東北大学・植野和子研究員・舟山亮准教授・中山啓子教授・木下健吾教授との共同研究です。

 

【用語解説】
注1. 統合失調症:約100 人に1 人がかかる精神疾患であり、思春期から40歳くらいまでに発病しやすい病気です。一般的に男性が女性より発症年齢が低く、その原因はまだ解明されていませんが、大きなストレスによる脳内での神経伝達の変動や遺伝要因などが考えられます。
注2. 背外側前頭前野:主に記憶、意思決定および感情コントロールなどの高次脳機能を担う脳の領域であると知られています。
注3. トランスクリプトーム:細胞中に存在する全てのmRNAの総体を指します。
注4. ドパミン: 脳内ホルモンの一つであり、情動、依存症、ストレスなどの神経機能に重要な役割を果たしています。
注5. GABA:脳のネットワークの興奮性シグナル伝達を抑制性に調節するGABA(γ-アミノ酪酸)は、学習や記憶など正常機能を維持しています。
注6. ミトコンドリア:エネルギーを産生するなど重要な役割を果たしています。
注7. ACSBG1:Acyl-CoA Synthetase Bubblegum Family Member 1 (ACSBG1) は脳の長鎖脂肪酸代謝および神経細胞の髄鞘の形成において中心的な役割を果たしている分子と考えられています。
注8. DNAメチル化: メチル基(-CH3)がDNAを構成する塩基の中で、シトシン(C)に付くことを言います。高いメチル化を受けて遺伝子発現が抑制されます。
注9. 母体免疫負荷統合失調症モデル動物:母マウスの妊娠中にウイルスを模倣した合成二本鎖 RNA を感染させ、その母マウスから生まれた仔マウスが成獣後に人間の統合失調症様行動を示す実験動物の一種です。

 

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